腰痛は介護をしているとほとんどの方が直面する問題で、介護の職業病とも言えますね。介護士は利用者を抱えたり、支えたり、中腰・前かがみの姿勢になることがとても多いため、腰痛に悩む介護士は多いです。今回は介護士目線で業務内容と腰痛の関係や原因、予防策、プライベートへの影響などを解説していきます。その中で腰痛予防にも触れていきますので、介護をこれから始める方、始めたばかりの方、腰痛に悩む方もぜひ腰痛予防の参考にしていただけたらと思います。
男女ともに有訴率の高い腰痛
2019年の国民生活基礎調査では自覚症状の上位5症状の中で、腰痛は男性が第1位、女性は第2位に入っているほど、腰痛に悩まされている方が多く、2016年の調査より有訴者率は増えています。
余談ですが、肩こりは男性が第2位、女性は第1位となっており、日本では腰痛と肩こりに悩んでいる方がとても多いようです。
腰痛とはそもそもは病名ではなく、症状名です。腰痛を生じる要因には職業・生活習慣・病気・ストレスなどの様々な要因があり、原因がはっきり特定できる「特異的腰痛」と原因が特定できない「非特異的腰痛」の2つにわかれます。
参考)
実は腰痛のほとんどは原因が不明
特異的腰痛はヘルニアや骨粗鬆症、脊柱管狭窄症などの病気が原因とされる腰痛のことで、腰痛全体の2割に満たないとされています。残りの8割強は実は何が痛みの原因なのかはっきりしない非特異的腰痛で、介護士の腰痛はこの非特異的腰痛とされています。
介助時に変に捻ってしまったり、介護疲労による腰痛なんだから原因わかるじゃん!と思われますが、腰のどの部分がどのように損傷しているかはわかりませんよね。病気が原因の腰痛はどの部分がどのように損傷しているのかがはっきりしています。
腰痛の原因とされるもの
移乗や排泄ケア、食事や入浴の介助などあらゆる介助場面で中腰や前かがみになることが多く、そのような姿勢を長時間したり、繰り返すことで腰回りの筋肉に疲労が溜まり、腰部を痛めます。
また、ひやっとする場面に遭遇した際は急に動きを変えたり、急に身体を動かしたりするため、全身の筋肉もですが、身体の要である腰部に大きな負担がかかり、痛めてしまう場合があります。
冬の寒い時期などで筋肉が緊張してしまっている時や筋肉に疲労が溜まっている時は些細な動作で腰痛を引き起こしやすくもなります。冬にぎっくり腰が多いのもこのためです。
増えている腰痛持ち介護士
経管栄養などの延命治療や栄養補助食品の発達によって人の寿命は確実に延びてきています。介護士をしていると食事についてこう感じたことありませんか?
「こんなゼリーと水分だけで生き続けることができるなんてすごい」と。
経管栄養剤も同じく1日あの量をおなかに入れるだけで生きていられるどころか、体格や体重も維持できるってすごくないですか? 中には体重が増えて、体格も大きくなる方も・・・。
身体の大きい方と小さい方では同じ介助でも介助者への負担は変わってきます。当然、身体の大きい方の介助のほうが腰の負担が大きくなります。また、介助者の体格も大きい方より小さい方のほうが負担は大きくなってきます。
〇介助姿勢の中では最も多い前かがみ・中腰姿勢、排泄ケアや体交、シーツ交換などでよくしますよね。
〇起き上がりや移乗介助での持ち上げ動作
〇入浴介助や着脱衣介助などでとってしまう長時間の同じ姿勢
〇食事介助や移乗介助・排泄ケアでとってしまう腰を捻る動作
〇休憩時間以外は動きっぱなしの長時間立ち仕事
介護はこのようなあらゆる場面で腰に負担のかかる動作・姿勢が多く、どれも介助する上で避けられない動作・姿勢です。介護は腰痛になりやすいと介護士自身も理解している為、皆さん気を付けているとは思いますが、どんなに予防動作など工夫していても腰への負担は0にはできず、少なからず負担はかかってきます。
しかし、だからといって腰痛予防をしなければ、すぐに腰を痛め、介護業界で生きていけなくなりますので、出来る限りの腰痛予防をしっかりとしていくことが介護士として長く生きていく必須条件となります。
プライベートへの影響にはどんなことがあるか
仕事では介護業務全般的に支障が出るとイメージしやすいですがプライベートへの影響はどうでしょうか。腰痛の度合いにもよりますが、腰を痛めてしますと介護業務同様、あらゆるプライベート場面で影響が出てきます。
特に屈む動作。
洗濯物は低い位置から拾い上げて上に干しますよね。
靴下や靴を履く時、洗顔する時、下半身を洗う時、前屈みになりますよね。
床やテーブルの上にあるものを取る時、大きく屈みますよね。
日常的に行っている何気ない動作も、少なからず腰に負担がかかっています。冬場になると寒さで筋肉も緊張しやすくなりますので、テーブル上のリモコンを取ろうと屈んだだけでぎっくり腰になるという人もいるそうです。私の知り合いでは介護業務上ですが、2月の寒い時期に利用者の手引き歩行をしていただけでぎっくり腰になってしまったそうです。
腰を痛めてしまうと普段は何気なく行っている動作であっても痛みを感じやすくなり、動きによってはできないこともでてきてしまうかもしれません。
腰痛をどう防ぐか
〇介助前の腰痛体操やストレッチ
ストレッチは身体の柔軟性を高め、リラックス効果があるとされています。身体や筋肉の硬い方、寒くて緊張している時は腰痛を引き起こしやすいので動く前にしっかりストレッチや体操をして筋肉の柔軟性を高めることをおすすめします。
〇負担の少ない介助方法、介助姿勢に改善する。
ボディメカニクスなどの技術を身に着けることで力任せの介護をなくし負担を少なくできます。腰を曲げるのではなく腰を落とし、持ち上げるのではなくスライドさせるなど、またできることは利用者本人に協力してもらうことが大切です。
〇介助するスペースの確保
狭い場所でのトイレ誘導や移乗介助などしてしまうと変に身体を捻ってしまったり、無理な姿勢をして余計に身体に負担をかけてしまいますので、介助前に介助しやすいスペース作りをしましょう。
〇声掛けしながら介助していく。
声掛けがないと利用者の協力動作なども上手く引き出せず、抵抗などもありお互いに余計に負担がかかってしまいます。声掛けすることで利用者の残存機能を活かすことができ、介助の負担を少なくすることができます。
〇リフトやスライドボードなどの福祉用具やパワースーツなどのアイテムを使用する。
介助者・利用者双方に負担の少ない介護をするために今や多くの福祉機器や福祉用具が流通しています。介助者が技術を身に着ければ負担を減らすことができますが、限界もありますので、用意できるときは福祉用具などに頼って負担を減らすことをおすすめします。
〇日々の疲労回復や腰回りの筋力強化
筋力不足や蓄積された疲労による腰痛を予防するために、休日や業務の合間など休息はしっかりとり、時には腰回りの筋トレなどをしてみることを良いかもしれません。


腰痛が出てしまった時はどうしたらいい?
介護はどんなに予防していても腰への負担は少なからずかかってくる為、腰痛予防に真剣に取り組んでいても腰痛になってしまう介護士も多いです。万が一腰痛が出てしまったら一番は筋肉の疲労を取り除くために身体を休めること、安静することです。かといって現場に穴をあけることに悪く感じて無理して頑張って仕事をしている介護士も多いのではないでしょうか。
どうしても休めない時はどうしたら良いか
介護は腰痛予防にどう努めても腰に負担が少なからずかかるので、腰痛が出てしまった時はより身体への負担が大きくなってしまいます。腰痛が出たときは安静が一番ですが、どうしても安静にできないときは身体にかかる負担を軽減することに努めましょう。
〇負担の大きい介助は他の職員に交代してもらうなど協力してもらう。
〇腰痛ベルトやパワースーツなどの腰部の負担を軽減するアイテムを使用する。
〇負担の少ない介助方法をする。
鎮痛剤を使用するという方も多いと思いますが、あくまで鎮痛剤は痛みをごまかしているだけで身体への負担は変わらないので根本的な解決にはなりません。
休みをとって受診・安静したほうがいい場合
介護の現場はほとんどの現場で慢性的な人手不足なので、1人欠勤が出るだけで現場に大きく影響してしまいますし、休みづらいことは私も介護士なのでわかります。ですが、痛み方によっては仲間に任せて休みを取り、受診をしたほうが良い場合があります。受診する場合、労災申請できる可能性もあるので、申請できるかどうかは別として労災指定病院を受診すると良いと思います。
具体的には・・・
・しびれが生じる場合
・痛む部位が腫れている場合
・長期間続く場合
・痛みが強く、安静にしても治まらない場合 など。
無理をして取り返しのつかないほど悪化してしまえば、今後の自分の人生あらゆる場面に悪影響をもたらしますので、腰痛を抱えている方は今一度自分の身体と向き合ってみてください。
最後に
疲労や身体の痛みなどから休日は静養して一日を終えてしまったなんてこと、介護士の方は多いと思います。無理をして業務にあたると、このように身体の疲労や腰痛はプライベートまで蝕んでいきます。
腰痛が悪化しなければしなくてもいい通院や医薬品購入、腰痛でしたいこともできずプライベートも抑制されてしまうなどデメリットばかりです。仕事一筋!という方は別ですが、プライベートあっての仕事だと思いますので、プライベートが崩壊しないようご自身の身体を守りながら働くことができるよう願います。