こんにちは、介護士わい(@ys_kaigo)です。
介護士として10年以上勤めてきて、転職や出向などで多くの施設での業務を経験してきましたが、介護現場の現実は多少の違いはあれど共通したものが多いなという印象です。
・低待遇
・ギリギリの人員配置
・業務量に対して万年人手不足
・腰痛などの体の不調
・対応困難な家族
・職員間の人間関係
・利用者からの暴言、暴力、セクハラ
などなど、挙げればもっと出てきそうです。サービス業種によっても現場の課題は異なってきますが、さっき挙げたものは大体どの職場でも共通している課題ではないでしょうか。
もちろん、挙げた課題は介護業界に限った課題でもないとも思います。
話が少し反れてしまいましたが、最近ようやく引っ越しや転職も落ち着いたので読書を再開しました。学生時代から読書は好きでいろんな本を読んでいますが、今後少しずつ介護系の書籍の紹介もできたらなと思っています。
さっそく今回紹介させていただく介護系書籍の話に移っていきたいと思います。
介護系書籍・小説『介護士K / 久坂部羊』
介護士Kと聞くと、面白くて有名な方を思い浮かべる方もいらっしゃるんじゃないかと思いますが、今回は皆さんが思い浮かべる介護士Kさんとは違います。
今回紹介させて頂く『介護士K』は久坂部羊(くさかべ よう)さんの小説です。
数年前に実際にあった老人ホームでの連続転落事件がモデルとなっている小説で、小説のテーマは「安楽死」といったところでしょうか。
この小説の帯も「死なせるのは慈悲なんです」と大きい文字が目につき、とても印象的な帯となっています。
この書籍の執筆した 久坂部羊さん とは
久坂部羊さんは現役の医師でもあり、2003年に『廃用身』でデビューされた作家さんです。現役の医師ということもあり、小説のテーマは医療や福祉、人の死などのものが中心の作品が多いです。
久坂部羊さんというと『廃用身』や『オカシナ記念病院』、『悪医』など有名な作品が多くあります。『悪医』では2014年に日本医療小説大賞も受賞されています。
どの作品も現代の医療の問題点や課題を題材にしており、描写も生々しく、衝撃的な書き出しも多く、それゆえに評価が読み手によって異なるような気がします。
『介護士K』のあらすじ・見どころ
有料老人ホーム「アミカル蒲田」で入居者の女性が深夜に4階から転落して死亡するという事故が発生する。
その事故に違和感を感じたルポライター朝倉はある介護士の関与を疑い、転落事故の調査を始める。
取材を重ねていく中で介護の現場の厳しい現実に直面し、調査にも行き詰まるが、第2、第3の事故が発生する。
報道や取材は更に加熱し、ある介護士を犯人と推測するような内容が飛び交うようになる。
ルポライター朝倉はそれでも真実を知ろうと懸命に取材を重ねていく。
介護施設での転落事故って聞くと介護士をしている方なら大体モデルになった事件を あれかな? って感じで予想できてしまうと思うんですが、たぶん思い浮かんだものがモデルで合っていると思います!
ただ読み終えた後で思い返すともしかしたらモデルとなっている事件は2つあるのかなって印象でした。老人ホームの転落事件ともう1つ、あくまで私個人の推測なのですが相模原の障害者施設での事件なのかなと感じましたね。
この書籍の見どころは
〇介護現場のリアルが生々しく描かれている。
利用者との関わりや介護士の労働環境、高齢者虐待についてなど
今後ますます深刻となってくる超高齢者社会。既に綺麗事だけでは済まされない介護現場になっているところも多いですし、家族から距離を置かれて生きることに希望を失ってしまった利用者も実際に多いですよね。家族以上にいる時間が長い介護士と利用者との関係性とかでも人手不足が一因で行き届かない個別ケアや関わり方とか、地域や家族とか友人とか施設の外の目や考え方と介護に関わっている人の考え方の違いや温度差など、介護現場ってそういう見えない課題が山積もりな訳ですよ。それこそ挙げたらきりがないくらいなので3つだけしか書きませんでしたが・・・。
そういう葛藤とか苦労が結構リアルに描かれているので、現役介護士には頷けるような、介護に携わっていない人には介護現場を知って頂けるような内容となっていました。
〇安楽死とか倫理的な部分について考えさせられる内容
今の日本では安楽死は認められていません。それでも介護の仕事をしていると生きているのが地獄なんじゃないかと思うくらいの心身状態の方に関わる機会が稀にあります。
例えば持病や栄養不足などから身体の一部が末端から腐って骨や筋が見えてしまうほど肉が溶けてしまった方とか・・・。
私は介護は仕事として割り切ってるのでそういう考えに肯定でも否定でもありませんが、感情移入しやすい人なんかは色々考えてしまいそうですね。
こういう倫理的な課題って絶対に答えが出ないけど、ケアとか介護って何なんだろう、良い介護って何だろうとふと考えてしまいますね。
最後に
久坂部羊さんの作品は医療や福祉の現場が物語の舞台になっていることが多く、人の死など考えさせられるテーマであることが特徴です。
どの作品も答えが出きらない現代の課題に焦点があたるし、読み進めていく中で異なる複数の課題に焦点が移りながら物語が進むような、多くのことを考えさせられる内容となっています。
読み進めていく中で、また読み終えた後で、読み手によって思う答えが違うので読んでモヤモヤしてしまう方もいると思います。
この『介護士K』も物語の終わり方も独特で、物語のテーマも「安楽死」と思われることからモヤモヤしてしまう方や物足りないと感じる方も恐らく多くいるんじゃないかと感じます。
でもこの小説は介護業界のリアルを生々しく描写していて、若い人も無関係とは決して言えないような、読む人の心に爪痕を残すような作品だと感じるので、福祉業界で働く人にも、福祉に関わりが無い人にもぜひ読んでほしい作品です。
シリアスなテーマではありますが、通勤時間の暇つぶしや自宅での退屈潰しにいかがでしょうか。